「説得的コミュニケーション」および「援助行動と対人関係」について、要点をお話しする授業でした。
授業内容に関連してみなさんからいただいた質問、および私がお答えしておきたい感想などをご紹介します。
09.2.9「人間の心理」Q1
Q:おもちゃをダメよ!!というと遊びたくなるというのがよくわかった。確かに何も言われなければ魅力を感じない。小さい頃から「勉強したらダメ!!」と言えば、勉強に興味を持つようになるかなと思った。興味を持ったところで、つまらないと感じてしまったら無意味ですが…
A:「勉強したらダメ!」というと逆に勉強に興味をもつ・・・といいんですが、残念ながらそうはならないでしょう。勉強が楽しいものかそうでないか、ということを別の場面(情報源)で知ってしまっているでしょうから。それに、人間は常にウラ(言外)の意味だけを読みとるのではなく、言葉どおりの意味で理解することの方がずっと多いですよ。
09.2.9「人間の心理」Q2
Q:相手を説得することは難しいけれど、これから職場においても、とても大切なことになってくると思います。説得するときには、その時の態度や言葉使いなどはもちろん、日頃の言動なども大きく影響していることを今日の授業を通して改めて感じました。
A:そのとおりですね。説得する側とされる側の人間関係においては、「社会的認知」で扱った事項がすべてあてはまっています(「対人魅力」の内容も含まれる)。説得される側は説得する側がどんな人で、何のために自分を説得しようとしているかを認識しながらメッセージを受け取っており、そこでは説得場面に至るまでの両者の関係性も影響してきます。
09.2.9「人間の心理」Q3
Q:私は妹に説得しようとするけれども、いつもどんなことを言ってもだめです。メッセージの内容や伝え方はいろいろ変えているつもりなのですが…送り手である私や、受け手の妹に何かダメなとこがあるのかなと思いました。
A:コミュニケーションをその構成要素の全体として考える視点は重要ですね。何か1つだけの原因があるというよりも、複数の原因が組み合わさって、ある特定の結果が生まれています。だから「私が悪い」「妹がダメ」といった単純な考え方はしないようにしましょう。
09.2.9「人間の心理」Q4
Q:説得の話の中で、命令形では相手に本当に受け入れられないということがとても印象に残りました。保育実習等で子どもに「ダメでしょ」「いけません。」ということをつい言ってしまったのですが、保育士さんに「こういう風にしようね。と教えてあげてね」と言われたことを思い出しました。将来援助者として信頼、専門性のある人物として説明できるようになりたいと思います。
A:えっと、私は「命令形がダメ」と説明したわけではありませんよ。強圧的メッセージが受け手にとって行動選択の自由を奪うことになるために反発を生じがちである、とは言いましたが。
「説得」とは少し離れますが、特に小さな子どもに対しては、何が良くて何がダメかをはっきり(しかも時間をおかず即座に)伝えることはとても大事です。ただ、「ダメでしょ」「いけません」だけでは何をしていいのかがメッセージに含まれていませんね。何をしたらいいかを伝え、それができたときにはしっかり(これまた時間をおかず即座に)ほめる方がよいです。このあたりは、「学習」におけるオペラント条件づけの基本原理でもあります。
09.2.9「人間の心理」Q5
Q:援助行動の話はとても興味深かったです。キティ・ジェノビーズ事件は漁田先生の授業でやったのですが、“誰かがやってくれるだろう”と考えてしまうんですよね。だから、「“私が”助けるんだ」という意識を持たなければいけないと思いました。
A:私自身は直接説明しませんでしたが、資料にはキティさんの事件について載せていましたね。あの事件は「他者の存在による援助行動の抑制」(いわゆる傍観者効果)に関する研究の重要なきっかけになりました。
ただ、「“私が”助けるんだ」という意識を持て!(持たないヤツは良くない)というだけでは問題が個人的なもののように見えてしまうかもしれません。そうではなく、他者の存在がたとえば「責任の分散(拡散)」という現象を生むという一般的な特徴(原理)をふまえて、ならばどうすればその現象を抑えることができるか、そのための社会的な仕組みを考えていくことが大事だと思います。
09.2.9「人間の心理」Q6
Q:「援助をして嫌われることもある」たしかにそう思う。援助をする時、自分が「してあげている」という気持ちがあると良い援助は出来ないのではないかな。
A:「してあげている」というのは、相手がそれをできない立場である、ということを、余計に顕在化させるでしょう。「相手と同じようにできない」ことのつらさを慮るべきですね。
09.2.9「人間の心理」Q7
Q:相手にしたことが、自分にとっては良い事だと思って行っている行動でも相手にとっては迷惑になるかもしれないという境目は難しいです。
A:確かに「境目」は難しいですね。相手がどんな人で、自分の行動のどの部分がどのように相手の目に映るのか、厳密に知ることはできないからです。また、とても重要なこととして、同じ人が同じ場面に出くわしても(たとえば、同じ事を同じ人にしてもらったとしても)、常に同じように感じるとは限らないということです。それだけ、人の心には“揺れ”があるわけです。
でも、「相手にとっては良く思われないかもしれない」という視点をもつことは大切ですし、それを恐れて何もしないよりも、自分が良いと思うことをしてみて、相手の思いを知る方がずっと良い(将来につながる)はずです。
09.2.9「人間の心理」Q8
Q:援助方法について学んできたが、援助を受ける人の気持ちについてあまり考えたことがなかったなと思う。援助は難しいことだと改めて感じた。でも、相手の自尊心を無意識のうちに傷つけない、そんな対人関係を築いていきたい。
A:対人援助の仕事は、受け手の物理的・客観的な状態だけではなく、その仕事が相手にどんな影響を短期的および長期的に及ぼすのか、を常に考えなければならない仕事だと思います。考えすぎて何もしないのはダメですが、考えないのはそれと同じくらいやってはいけないことでしょう。
社会福祉専攻のみなさんのためにたくさんの心理学系科目が開講されている理由も、その点にあるはずですね。
09.2.9「人間の心理」Q9
Q:私たちがこれから対象としていく相手はニーズのある方です。援助技術を学んでいると、「ニーズ理解」という言葉が出てきます。正しいニーズ理解は非常に困難なことですが、それができてこそ、対人援助者であると思います。正確なニーズ理解ができていれば嫌われることもないでしょう。
A:私は「正確なニーズ理解」という言葉が意味する範囲を正確には知りません。ですが、非常に一般的なレベルでいえば、ある事柄がいくら大事だとしても、それさえあれば大丈夫、といった姿勢をもつことは危険ではないかと思います。
前(Q7への回答)にも書きましたが、人の心にはある種の揺らぎが常にあって同じ人の同じ行為でもまったく同じように受け止めるわけではないし、たとえば理不尽だとわかっていても何かの感情をもってしまう(たとえば「善意でやってくれているのはわかっているんだけど、でもそこまでしてほしくない」「良いことをやっている人なんだけど、自分にはできないことだから、くやしい」など)ことはたくさんあるからです。人間の感情はしばしば合理的ではないので、「理に適った正確なニーズの把握」というのがもしできていたとしても、それがあればすなわち嫌われることはない、ということにはならないと思います(「嫌い」という感情自体が合理的とは限らないので)。
09.2.9「人間の心理」Q10
Q:援助して嫌われることもあるということで、援助側にとってこれは難しい問題だと思います。これから福祉の仕事をするにあたってこのような悩みに合うかもしれませんが、めげずに頑張りたいと思います。
A:ええ、そうですね。めげずに、がんばりましょう!
09.2.9「人間の心理」Q11
Q:“社会福祉”とは本当に難しいです。人というのは考え方や感じ方が異なり、社会福祉はそんな“人”を対象にしています。授業の最後に「人は人を助けるのか」「助けることは良いことか」とありました。先生の考えや世界の意見を学ぶことができましたが、やはり、私個人としてはまだ答えがみつかりません。これから、援助者として働いていきますが、考えることを忘れないようにしたいです。
A:仕事をしていく中で、ずっと持ち続けるべき問題意識だと思います。きっと終わりのない問いでしょう。
なお、授業で私が説明したことは、「私個人の」意見というよりは、社会心理学における援助行動研究の位置づけ(なぜそういう研究があるのか、どんな視点で研究がおこなわれているのか)だと思ってください。講義ノートには、そのことを1時間半かけてしゃべれるような書き方をしてあり、実際の授業ではそれを15分くらいにまとめるために、違った表現の仕方をした、ということです。